ここは遊女屋『花衣』
色町の中心にある大きな遊女屋だ。この色町には男達が女や色子を買う為にやってくる
華やかな見える色町には自由は無い
帝が住む町とは大きな門で区切られていてオレ達は外に出る事も出来ないのだ
まるでここは鳥籠のよう‥自由に飛び回る事さえ許され無い
いつになったらここから出られるのか?
今日もその日を夢見てオレは男に体を差し出していた
飛べない鳥 第一話
「………」
ゆっくりと体を起こすと腰に痛みが走る。
それと同時にどろりと何か生温かいモノが腿を伝って流れ出た。
「‥気持ちわりぃ」
さっきまでオレを抱いていた男の汚わらしい欲望が自分の体に付いているだけで吐き気がする。
その辺にある布で擦り取ってからよろよろと立ち上がって着物を羽織りゆっくりと浴槽に向かう。
オレは抱かれた後に眠れた事は無い。
気絶した後にすぐに目が覚め、こうやって相手が起きない隙に部屋から抜け出す。
刀さえあればこんなヤツの首、切り落としてやるのに…
色子専用の浴槽には仕事を終えた少年が集っていた。
色子は同姓に抱かれるのが仕事だから自分の仕事に誇りを持っている者は少ない。
だからオレと同じ行動をするものが多い。
皆ここにきた事情は様々。
親に売られた者・捨て子・地位を失った者・借金を返す為
オレの場合は捨て子で誰を恨んでいいのかも分らない‥
ここをオレが出れるのは25歳の誕生日か身請けしてくれる人が現れるかだ。
大体は身請けしてくれる人なんかいない
じっと桶に溜まった水をじっと見つめたまま動かないサスケを見つけた友人の小太郎が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「顔、青いけど大丈夫か?」
「あぁ」
そっけなく答えると小太郎はオレの頭を二回程軽く叩いて優しく笑いかけてくる。
「御互い頑張ろうぜ」
オレがそうだなと言おうとした瞬間顎に手を当てた同じ色子のアキラが神妙な面持ちで現れた。
アキラはオレと同じぐらいの年の頃からここに居る。
頭が切れるが性格少々難ありなのだがオレ達のまとめ役にかって出ていた。
「そう頑張れない事態が起きそうですよ」
深く溜め息をつきながら二人の間に腰を下ろす。
「この都の色惚け管理官がここを視察するらしいんです」
「なっ――」
声を荒げようとした小太郎の口を塞いで唇の前に人差し指を立てて呟く様に話だす。
「‥シッ!これはまだ公になってないのでお二人の心に閉まっておいて下さい」
「分かった」
オレがゆっくりと頷くとアキラは安心した様に微笑んで自分も体を流し始めた。
困った事になったな。
オレ達が住む色町は大きな都の外れにある。
管理官と言うのは朝廷に使える貴族でそこで一番偉い織田信長は色町を視察と言って遊女・色子を買いまくる男だ。
たがらヤツがくるのが凄く嫌がれていた。
「はぁ‥本当に嫌ですね」
「…なぁ、もしかしてオレ達も選ばれる可能性あるのか?」
洗い終わり体にくっついている泡を流す。
オレがここに来てからはソイツきた事ねぇからな。恐いって実感ねぇんだよなぁ…
「可能性はあります。でも私は無いか‥――」
「…アキラは色子デビュー前にヤられちゃったんだよねぇ」
言いかけた所でアキラの顔の横から金髪がぬっと出てきた。
オレ達は驚いて何も言葉が出ずに見ているだけだったが、アキラの表情は打って変って凄い形相になる。
「ほたるっ!!何で言うんだよ!」
ほたると呼ばれてた金髪の青年はここの店のニ代目でアキラの幼馴染みだ。
普段から大人しく大人びたアキラもこのほたるの前だけは子供っぽくなる。
気を許している証拠だろう。
しかし、口喧嘩が始まっては中々終わらないのがこの2人の困ったところだったり…
でもいらん火の粉は浴びたくないので黙ってる事にする
「だって‥本当の事じゃん」
「あんな過去っ!無い事にした‥い…」
唇を噛締めたアキラの頬には一粒の涙が零れた。
それを隠す様にサッと手の甲で涙を拭っていると、ほたるは困った表情を浮かべてぽりぽり頬をかく。
「ごめん…からかいすぎた」
まさか、あのアキラが泣くとは思ってなかったのかいつも無表情のほたるが少し焦っている気もした。
だが、本気で怒ったのかほたるの言葉に反応せずに瞳を上げてオレと小太郎を見つめ直す。
「アイツは最悪です。なるべく見定め時は目立たない様にして下さい」
「どんくらい‥ヤバイんだ…?」
黙って頷いた後、管理官を想像してみたがそんなに最悪な客の想像がつかない。
喉を鳴らして恐る恐る尋ねるとギッっとこちらを睨んで来る。
「‥アイツは人の苦しむ顔が好きなんです。1週間は離してくれませんよ」
その言葉にゴクリと生唾を飲んで小さく一週間‥と繰り返すとアキラはさらに言葉を続けた。
「‥好きな人がいるなら尚更辛くなりますよ」
好きな人なんかいない
いや、たくさん人間の汚い部分を見てきてしまった自分には人を好きになる事は出来ないのだ。
産まれてすぐ捨てられたオレは愛を知らない。
だから、もし気にいられても耐えられる自信があった。
…この時まではそう思っていた。
これから起きる出来ごとによってオレは愛を知る事になる。
だが、この時のオレには知るよしもなかった
続。