飛べない鳥 第三話






あれから空いてる時間を探しては毎日その場所で幸村と会って、外の世界の話を聞いたり色町の話をしていた。
外の話を何回も聞いていると段々色々な事に興味が出る。
例えば幸村はどんな所に住んでいるのとか、毎日何をしているのなど…
オレの知ってる世界はこの町だけだから…いつか本当の世界を見てみたい


「でもサスケ君の知りたいモノってその幸村さんの事だけだよね〜」

そう…何故かオレの中の興味が外界から幸村に変わっていた。
どうしてほたるが幸村の事を知っているのとかと言うと、
実は会う度に店まで送って貰っているので幸村は色子内でちょっと名物になっている。
容姿端麗な幸村は男のオレから見ても見惚れるぐらいだから相当目立っているに違いない。


…って、


「いきなり出てくんなよ!?驚くだろッ!」

「そうですよ、ほたる。人のモノローグに返事しちゃ失礼でしょう」

ゴンッと良い音をさせながらアキラはほたるの頭をおぼんで軽く叩く。
いつの間に、アキラまで…。
それに相変わらず見事なおぼん捌きだ。


「…痛い‥。だって口に出して言ってたから」


口にって今喋ってた事全部?!


「ぇ///オレ口に出してたのか?!」


「「うん」」


二人は息をピッタリと合わせて頷く。
…は、恥ずかしい〜!
紅潮した頬を両手で包み込むと凄く熱くなっていてよけい焦る。
そんなオレを見てアキラは優しく笑いかけてきた。


「まぁ、他人に興味を持つのは良い事ですよ。――でも…」


スッと厳しい顔になり、今まで和やかに流れていた風が一瞬で凍りつく。


「今はまだそれ以上先に進まないようにして下さい」

「ぇ‥‥?」


声を低くして厳しく言ったアキラの言葉の意味はつまり“今はまだ幸村を好きになるな”って事か?
“好き”…はきっと友情ではなく‥愛情?
まだ…というのは以前聞いたここのお偉い役人の事だろうか…
うーんと頭を捻るとほたるが隣にやってきてオレの頭を撫でる。


「アキラの意地悪〜。アキラが意地悪するから悩んでるじゃん」


「なっ///私のどこか意地悪なんですか!ただ注意しただけでしょう!!」


腕を組んでぷいッと顔を背けるとアキラはずんずん床を踏み鳴らしてと自室に戻って行く。
ったく、アキラはほたるが絡むとすぐ怒るんだよなぁ。
大人ぶってるけど、結局は子供って事か?
なんてどうでも良い思考を巡らせているとほたるが話し出す。


「‥アキラはサスケが心配なんだろうね…」


だから怒らないで、と見た事が無い様な優しい微笑みを浮べる。


「‥別に怒ってねぇけど」

「…きっと自分と同じ思いをさせたく無いんだよ。あの後凄い荒れてたし…」


ほたるが目を細めて辛そうに言った。
何でほたるが辛そうなんだ?
それに、あの後って……


「ほたる…?」

「ぁ‥アキラ」

「ッ!!?」


じーっと壁の影からオレ達の様子を伺っていたらしいアキラは顔を真っ赤にしてばっと隠れる。
それから何事もなかった様な振る舞で姿は出さずに、声だけで話しを続けた。


「べっ別に覗いていたわけではありませんから///
‥サスケ君お客さんですよ」

「え‥客?」

「そう、幸村さんです」

間髪も居れずに立ち上がり廊下に飛び出す。
アキラが隠れている角を曲ると顔を真っ赤にさせて俯いているアキラがいた。
思わず、ピタリと足を止めて魅入ってしまう。


「えっと…」

「ほら、待ってますから早くお行きなさい!」


アキラに軽く会釈してから階段を駆け足で降りる。
玄関にはイスに座って足をぶらぶらさせている幸村の背中が見えて勢いに任せて大声でその名前を呼ぶ。


「サスケ…、悪いねこんな時間に」


ゆっくりと振返った幸村は首を傾げて笑う。


「今日は客取って無かったから平気だよ」

「客‥そう、だよね」

すぐに笑顔で返すと、幸村は表情を曇らせて口の中で呟く様に繰返す。
それから顔を上げて場所変えよう、といつもの土手に向った。
二人で肩を並べて座り、黙ったまま星がまたたく夜空を見上げる。

どうしたんだろ?
いつもならうざったいぐらいにうるさいのに…。

顔を覗いても星灯しかないここでは幸村の表情を読み取る事は出来ない。
くんっと服を引張って首を傾げる。


「幸村、どうしたんだよ?」

「あのね、‥僕明後日家を継ぐ事になったんだ…」

「ぅん‥?」


よく意味が分らなくて疑問符を付けながら相槌を打った。
オレが意味が分かって無い事に気付いたのかフッと笑って続ける。


「家を継いだらもうここには‥来れないんだ」

「――!?」


バッと顔を上げて幸村の服を握り締める。


「来れないって…もう二度と会えないのか?」


幸村は答えずに頷くだけだった。
会えない‥?
折角友達になったのに…


「お前に会えなくなるなんて嫌だ!お前だって継ぐの嫌なんだろ?だったら…」





ずっと一緒にここに居よう‥?


そう言いたくても、声が出ない。
頬を伝って涙が草の上に零れた。
止めようと思っても止められなくて…もう幸村の顔がぼやけて見えない。


「…やだぁ‥いかないで…」


涙に濡れた顔を幸村に押付けて切実に投掛けた言葉が着物に吸い取られる。
このまま駄々をこねたら幸村はずっと側に居てくれそうな気がした。


「サスケ‥泣かないで…お願い」

いやいやと首を振るだけのオレの髪に、困るよ…と顔を寄せた。
それに驚いて顔を上げると名前を呼び掛けた唇が塞がれる。


「‥ゆき……っんん――」


最初は啄む様な唇だったがどんどん激しくなり、舌を絡ませていく…


「…んっ‥ふぅ…」


唇が離れる度に聞こえる濡れた音がさらにオレ達を興奮させる。


「ッはぁ…幸村…」


離れた唇を愛しそうに見つめると、優しく微笑んでからもう一度触れるだけのキスをした。


「あんまりそんな顔しないで…止められなくなるよ」


くしゃとオレの髪を撫で抱き締める。
その胸に顔を埋めて幸村を誘う。


「いいよ…止めなくても」


広い幸村の背中に腕を回す。
幸村だったら…抱かれてもいい。
絶対、嫌な気持ちにはならない...


「‥良く分らないけど、幸村の側にいると凄く落ち着くんだ」




だから…側に居て――

そう服に吸い取られた言葉は幸村に聞こえたかは分らない…


「‥大切だから今はまだ、抱けないよ」


オレに回す腕が強くなる。


「あの籠の中から君を必ず救い出すから待っていて…」


そう、もう一度唇を重ねた。
今度触れるだけと口付け…
オレは幸村の熱を感じたくて大きい背中に腕を回す。
出来る事ならずっとこのままで居たい。
離れないでずっと側に居たい…

だが、時間は待ってはくれなかった。





「――幸村様、もう行きませんと…」

「分かった‥。ボクの我儘聞いてくれてありがとう…才蔵」


スッと体を離してオレの頬に頭を手を添えて優しく微笑む。


「‥サスケ、必ず迎えに行くから待っててね」

「幸村…」


愛しそうに手を離し、哀しそうな瞳で無理して笑った。


「‥元気で」


そして彼は背を向けて歩き出す。
その背中には未練なんか無くて真っ直ぐと自分が行く道を進んで行く…

「幸村ーッ!!オレ‥お前が戻って来るのずっと待ってるから!!」

叫んだ声はシンとした木々に吸い取られ、彼に聞こえたかは分らない。
だって、どんどん闇に消えて行く幸村は一度も振り返る事はなかったのだから……


また、会えるよな?
幸村…オレずっと‥ずっと待ってるから――


ずっと…  







続。







 
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