飛べない鳥 第四話




「――で、彼は客も取らずに惚けてるんですか?」


自分の部屋から何もせずにずっと外を見て毎日過ごしているオレに痺れを切らしたアキラはほたるに怒りをぶつけていた。


「…何でオレに怒るの?」

「だってあなたは跡取りじゃないですか!」

「…でも、あんなに落ち込んでるのに無理やり客を取らせるのも…」


ジッとオレを見つめて眉を顰めるほたるにアキラも神妙な面持ちで溜め息を漏らして頷く。


「私だってそう思いますよ。ですが、あんなじゃサスケ君がどうにかなっちゃいそうで‥」


幸村がこの町から居なくなってからまともに食を取っていなかった。
困ったものです、と深く溜め息をついた。
そんなに自分が落ち込んで見えるのかそう反論したくてもする気にはなれない…。
自分でもこの状況は正直まいってる。


「‥サスケくん」


その時、アキラがオレの隣に来て腰を下ろした。
じっと真剣な瞳でオレを見つめる。

「今言うのは酷かもしれませんがここで客を取らないのは許されません。
だから、あと今日一日たくさん落ち込んで明日からまたいつもの君に戻って下さい。
それに辛い時は一人で居ないでみんなで居た方がいいですよ」


そう、優しく微笑んで抱き締めた。
幸村が居なくなって以来感じる人の温もり。


「ありがとう、‥アキラ」


自分と変わらない華奢な体に手を回して小さく呟いた。
その時、オレ達を静かに見守っていたほたるは指を咥えてねだる子供の様に見ている。


「……ずるい」

「は…?」

「オレにはそんな事絶対してくれないのにサスケにばっかり…ずるい」


オレからアキラをひっぺがすと今度はほたるがアキラを抱き締めた。


「なッ///あなたはこんな時に何をしているんですか!」


アキラは顔を真っ赤にして抵抗する。
だけどどこか嬉しそうだった…
こんなにもこの二人が羨ましいと思ったのは初めだ。
いつも好きな人が側に居て一緒に居られる時間だって長い。
……でも、アキラは色子なんだ。
じゃアキラいつもほたるじゃないヤツに抱かれてるって事なんだよな‥。

ほたるは…アキラは辛くないのか?



……じゃオレを好きだと言った幸村はオレが他のヤツに抱かれてるのをどう思っていたのだろうか…?
今はもう、聞く事すら出来ない……



「――サスケ君ッ?!」


ぽたぽたと涙が流れて畳を濡す。
自分が泣いているなんてアキラに言われるまで気付かなかった。


「…ごめん」

「何がですか?」

「アキラやほたるだって辛い思いしてるのにオレばっかり‥自分が不幸みたいな事を言って…」


オレの言葉を聞いて二人は顔を見合わせてからまたオレを見て優しく微笑む。
オレの涙を拭ってくしゃ、と頭を撫でたほたるにアキラはオレの前に膝を付いて顔を覗き込んだ。


「有難う、サスケ君は優しい人ですね。それに自分が一番辛いと思わずに他の人の事を考えられるのは貴方が強い証です」


羨ましいですね…、とアキラは辛そうに微笑んだ。
アキラ…、と呟くとほたるが珍しく微笑む。


「今日は親父に言っておくからゆっくり休みなよ…」

「アキラ、ほたる。ごめん、有難う」

「ん?何か騒がしいですね」


その特、玄関の方が騒がしくなった。
窓から身を乗出すと豪華な布を身に纏った男達の集団が見える。
その男達はほたるの親‥つまり亭主に何やら交渉している様なのだか無理やり意見を通そうとしている様にも見えた。


「なぁほたる、アイツ誰なんだ?」


ほたるも身を乗出して下を見る。
すると、今まで柔らかい表情だったほたるの顔が一瞬で険しくなり、低く唸る様に名を呼ぶ。


「織田…信長‥」


「「――ッ!!!!!」」


それまで和んでいた空気が一瞬で凍る。
アキラはほたるを押退けてバッと身を乗出して下を見た。


「…まさか今日に来るなんて!」


手すりを掴む力は増し、唇を噛締めてダンッと拳を叩付けた。
オレがよく意味が分らないと言う顔をするとアキラは織田信長を恨めしそうに瞳を動かさないまま見つめて呟く。


「視察ですよ。と言っても只私達をいたぶるだけの行為ですがね…」

「まさか‥オレにあったりしなよな!オレもう‥他のヤツには……」


縋る様にアキラの腕を掴む。


「分かりませんよッ!!私だって…もうあんなヤツ……」


消え入る声で呟き、膝を崩した。
近くで見守っていたほたるは静かに立上がる。


そして部屋を出て行こうと襖に手をかけた。
それに気付いたアキラは何か勘づいた様に心配そうな瞳で服を掴む。


「…どこに行くんですか?」

「アイツの所‥」


しれっと答えて服を掴む力を込めたアキラの指を解き、歩みを進る。


「もう、渡すものか…絶対」

「ほたるッ!!」


アキラが制止しようと声が上げるがその足を止める事なくほたるの姿は消えていった…
ほたるは何を考えているか分らない所があったが、今はオレでも分かる。
アイツが何をしようとしているか…


「アキラ何してんだよ!早くアイツ止めに行かなくちゃ!!」


ほたるが消えていった方を見つめたまま座り込んで入るアキラに痺れを切らしたオレは
無理やり立たせようと腕を引っ張るが全く動こうとはしない。


「アキラッ!!」

「分かってます!でも‥アイツが居ると思うと足が震えて立てないんですよ!!」





――ガシャーンッ




「「――ッ!!」」



その時、下からガラスが割れる音がした。
少しじゃないたくさんだ…。
間違いない…ほたるが織田信長に何かしている。
あんな政府幹部に手を出したらただでは済まないはずだ。

…止めなくちゃ!!



「サスケ君!」


アキラが制止する声が聞こえたが気にせずに階段をかけ降りる。
角を曲がって玄関の前に立つと頭から血を流しているほたるの前で不敵に笑う織田信長が居た。
初めて見たが側に居るだけで背筋が凍る。
あの長い髪が顔半分にかぶっているのも余計に気味が悪いし、あの目で見れるだけで気持ち悪く感じた。


「…テメェ‥ほたるに何するんだよッ!」

「‥待って、これはオレの問題だから手…出さないで」


信長に掴み掛かろうとするオレを制止して流れる血を着物の袖で拭う。
着物に赤い染みが広がっていく、その染みがほたるの出血の量の多さを物語っていた。


「何言ってるんだよ!そんな怪我で…」

「ぃい…こんなのアキラが受けた痛みに比べたら‥どうってことない」



ほたる…お前‥



「ほぅ、お前どこかで見たと思ったらアキラと言ったか‥あの色子を好いていた小僧か…」


クク‥と喉の奥で笑い、座り込んでいるほたるの前まで行き見下す。そして髪を掴み上を向かせた。


「アイツの躰は良かったぞ。‥もうさせて貰ったのか?」

「……ふざけるなッ!!」

「――ほたる、やめて下さいッ!」



掴み掛かろうとした寸前にアキラがオレの前をすり抜けてほたる抱き締めて止める。


「…アキラ!?」


予想にもしてなかったアキラの登場にほたるは驚きを隠せない。
信長に背くのを止めて縋りつくアキラの震えている背中に手を回す。

「…ククッ、久しいなアキラ。元気にしていたか?」


そんな二人に靴鳴らして近付きアキラの髪に触れ様とするとアキラはビクリと体を強張らせ、ほたるがその手を跳除けた。
それを見た信長は楽しそうに声を上げて残虐的に笑う。


「これだから色町で遊ぶのはたまらん。なァ、アキラ?」

「‥遊ぶだって?ふざけんなッ!俺達は玩具じゃねぇ人間なんだよ!!」


そう叫ぶと力強く握った拳で信長の頬をおもいきり殴り飛ばしてやった。
後ろにいた家来がサッとオレに向かって銃を構えた。


「――止めろ」


よろめいて膝をついていた信長が手を家来の前にだして止めに入った。
そして態勢を正して見据える。


「貴様、名は…?」

「…猿飛サスケ」


名前を聞いた信長が方頬を吊上げて不気味に笑う。
いや、笑うと言っても口先だけで目は笑ってはいない…


「気に入った。サスケ、お前を買おう」


……え、
買うって…オレを抱くってこと‥?


「なッ‥何でオレがテメェ何かにヤられなきゃいけねぇんだよ!!」


嫌だ…もう、幸村以外に抱かれたくなんか…
しかもこんなヤツに!


「色子のお前に断る権利は無い。物は物らしくおとなしく抱かれろ」

「――な…」


そう言うと信長は亭主に札束を叩付けて一番良い部屋を用意しろ、と顎でしゃくる。

「待ちなさい!もうあなたの好き勝手にさせるわけにはいきません!!」


それまでほたるの側に居たアキラが両手を広げオレを守るように立ちはだかった。


「ほう…だったら代りにお前が奉仕してくれるのか?」

「…そ‥んな事するわけないでしょう!」


アキラの頬に触れ様と伸ばした手を払い、噛付く様に睨み付けた。
信長は怯むどころか楽しそうで余計に気持ち悪さを際立てる。


「どっちにしろもう遅いのだよ。私はコイツを買ったのだからな。
買われた色子はどんな客でも相手にする」


違ったかな?、と顔を歪めさせて笑う。
辺りは静まりかえり信長の低く不気味な笑い声だけが聞こえた。
主人がお金を受けとってしまった今、オレは信長に従わなければいけない…
この時ばかり以上にこの仕事を恨んだ事はなかった…


「さて、茶番は終わりだ。これからは大人の時間としようじゃないか」


そう言うとオレを軽々と担ぎ上げる。


「なッ、何すんだよ!下ろせ!!」


とれたての魚の様にじたばた暴れてやるが信長は気にしていないのかどんどん奥へ進んで行く。
子どもと大人、力関係は歴然としていた。
どんなに暴れても腕を引剥がそうとしてもビクとしないどころか反対に掴む腕の力が増していく。


「くそ…離せよ、離せってば!!」


オレの訴えは空しく館の中に響くだけだった…








続。






ほたアキ最高〜vvv
でも、ほたるって難しいですね。





 
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